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■障害者が結婚・出産・子育てを選択肢にするために

 もう6年前になる2010年に、NHK教育『きらっといきる』(1月21日午前12時~1229分※再放送)を観た。
 障害者などの社会的排除の対象になりやすい人の日々を紹介する番組で、「密着!婚活大作戦~脳性まひ・井谷優太さん~」と題された。

 鳥取在住の井谷さん(25歳)は、婚活中の青年だ。
 でも、言語障害で自分の良いところをアピールすることが難しい。

 これまで3回、地元のNPO法人が主催する婚活パーティに参加し、2回目は番組のカメラが入った。
 それでも、カラオケタイムでは「障害者として一人だけ車椅子で参加している自分の言葉が健常者のみんなに聞き取れないのでは」と不安で、自分の趣味を書いた名刺をお目当ての女性に渡すのが精一杯。
 名前も聞けないまま時が過ぎ去り、後日彼女からの返事も「今回は遠慮しておきます」だった。

 その後、養護学校時代の女友達に相談すると、「車椅子だけでじろじろ見られるのに、普通の人たちのパーティに行くだけですごい」と言われた。
 そこで「車椅子や障害ではない、明るさや前向きなどの自分の良いところをアピールするのが足りなかった」と反省した井谷さんは、自分で新たな出会いの場を作るためにイベントサークルを立ち上げ、市内の女性の集まる店に30か所以上、自作のチラシを配布した。

 カフェを借りきってスィーツを男女一緒に作るイベントだったが、同窓生しか来ず、「来る」と言ってくれた美容室のスタッフたちは当日全員が「急な用事が入った」とメールでドタキャン。
 だが、彼は笑顔で言った。
「みんな楽しく盛り上がったから成功。80点。1ミリ前進した。また続ける」

 スタジオでMCを務める山本シュウさんは、「イベントを運営する仲間を集めていけば、その過程で出会いがあるかも…」と励ましていた。
 養護学校を出てそのまま福祉作業場で働き始めた彼は、「同世代では(障害者ではない)女の人があんまり(そばに)いなかったから意識してしまう。緊張する」と照れた。
 その姿は、日本企業が障害者の雇用に積極的でないことを浮き彫りにしていた。

 養護学校を卒業後、障害者を当たり前のように雇う会社やNPOなどがたくさんあれば、明るいキャラなら18歳の時点で健常者の女性に慣れる機会も訪れたはずだ。
 番組は等身大の障害者の姿を真摯に伝えることに腐心し、成功事例にこだわらないエピソードを30分間にふんだんに盛り込んだ。
 失敗しても前を向く井谷さん個人の魅力が印象に残る良い番組だった。


●障害者の困難を自己責任にしないために起業教育を

 婚活に悩んでいる障害者は少なくないだろう。
 だから今日では、障害者向けの婚活パーティなどのビジネスもある。
 婚活パーティの検索サイト結婚相談サービス結婚支援サイトもある。
 ただし、障害のあるなしに関係なく、生活を共にしていくには収入源が必要であり、出産・子育てを当然の選択肢にするなら、養育・教育のコストを賄えるだけの安定した仕事が不可欠だろう。

 だとしたら、本当に必要なのは、障害者向けの起業教育ではないか?
(※障害者向けの婚活ビジネスも、障害者自身が手がけた方が当事者ニーズを満たしやすい)
 障害者を積極的に雇用する会社がまだ多いとはいえず、逆に障害者の困難を解決するソーシャルビジネスが歓迎されている今日、障がい者の当事者性を活かした形で起業する人が増えれば、その分だけ当事者を雇う動機を持つ会社が増えることにもなる。

 大阪のミライロや、愛知の仙拓など、身体障害者自身が起業し、当事者を社員として雇う企業は増えつつあるので、すでに起業家として成功している「障害者社長」を全国から講師に迎え、Skypeで毎回6人限定の少人数の起業家講座を提供したり、その講座を動画として販売できる仕組みを作ったり、障害者福祉を学べる学校向けに講座を売るなど、マネタイズの余地はあるだろう。

 とくに、障害者福祉の分野では、障害を持つ当事者と一緒に仕事を作り出したり、ソーシャルビジネスの手法を取り入れて起業する方法を学ぶチャンスが乏しい。
 障害者と健常者がビジネスという同じ目的を分かち合いながら一緒に歩んでいくモデルを作れば、健常者・障害者のどちらかが起業することで障害者の働く場所を増やせる。
 そうしたビジネスの実践を、障害者福祉を学べる学校では、そろそろ本格的に導入する頃合いなのではないか?

 婚活の困難という足元を見て障害者の家族からお金を受け取るサービスより、障害者自身が稼げる仕組みを作り出す教育事業の方が、仕事作りを通じて男女の出会いも増やせるし、コミュニケーション能力も鍛えられるだろう。

 実際、車イスでまちなかを移動するだけで困ってしまうという障害者自身のもつ「当事者固有の価値」は、えきペディア地下鉄バリアフリーマップ(京都全32)』のような商品を生み出せる。

 受験者数を増やしたい大学や専門学校にとっては、障害者による起業コースを設ければ、地元に会社を作り、若者の定着にも寄与するので、地元の自治体から助成金をもらえるように働きかけることもできるはずだ。

 大学なら4年間も通うのだから、入学時点から起業を実践させれば、卒業までに大卒並みの月給を支払える会社を作り出すことも夢ではない。

 とくに受験偏差値では「底辺校」と呼ばれる大学にとっては、就職内定率を上げられる決め手になるかもしれない。
 その実現は、大学の経営者がどこまで学生の力を信じられるかにかかっているのだろう。
 障害者が恋愛したくなる社会環境を作れるかどうかは、実は学長の志次第なのかもしれない。

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