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■セックスワーカーが、大切な人に知ってほしいこと


 あなたには、風俗やアダルトビデオの業界で働いてる友人や家族がいるだろうか?

 僕はフリーライターを始めた1990年の頃から、雑誌での仕事を手広くしていたので、当時から雑誌の取材を通じてセックスワーカーの知り合いが増え始めた。
 最近でも、僕の主催するオフ会には誰でも参加できるので、セックスワーカーの方もふつうに参加するし、それを機にSkypeしたり、お茶したりと、ふつうに友だちとして付き合いが始まることが珍しくない。

 僕の取材する対象としては、セックスワークは専門外だ。
 もっとも、自分の知らないことを知りたいという好奇心や、自分自身にとって専門外のところで生きている人間のことをあえて知ろうとする作法を楽しみたい僕は、特別な興味をもっていないがゆえに自分から遠いセックスワークについて知ろうとするし、セックスワーカーの友人が聞かせてくれる職場や人生のストーリーを面白く感じられる。

 僕は自分が変人だと思っているので、僕以外のすべての人間に面白みを感じる。
 そういう意味では、「セックスワーカーの話だから特別に面白い」とは感じないが、どんな仕事にもその仕事ならではの面白さがあり、人それぞれにその人なりの仕事の仕方があり、その多様性に現実の豊かさを学ばせてもらっているのだ。

 僕は文章を書くのが苦ではないし、書きたいことを自分で企画し、出版社へプレゼンし、雑誌連載や書籍という形で商品化することで飯を食ってきたので、25年以上もものかきの仕事を無理なく続けられてきた。

 ものかき僕自身の生き方や働き方として面白がれるので、この仕事をすっぱり辞めて他の仕事に同じだけの労力をかけることは難しいかもしれない。
 それでも、人類最古の仕事であるセックスワークは、僕にとって取材対象というだけでなく、自分の何が売れるのかを考える上で無視できない職種なのだ。

 だから、若い頃、雑誌の企画で「彼氏代行業」なるものをやってみた。
 これを僕の「黒歴史」だと笑うネット・ユーザがいたが、トンデモな勘違いだ。
 ネタになることは美味しいと思うのがライターだし、「ホストでもない素人30代男が売れるのか?」という社会実験のルポは、90年代後半の読者を大いに楽しませた。

 女子高生の援助交際がまだ話題になっていた当時、「男には売り物がない」と嘆く男たちが一部にいたからこそ、「レンタル彼氏」が成立するとしたら何が求められるのかを身をもって知ろうとしたのだ。
 わからないことをわからないままにして「そんなもんだろう」と決めつけるのは簡単だが、笑われても、バカにされても、わからないことを知ろうとすることは、誰もしたがらない挑戦だろう。


 多くの人はやりそうもない、あるいは積極的にはしたがらないことをやってみせてこそ、サービスとして値付けできる価値が生まれる。
 それは、売春が史上初めて行われた頃も同じだったかもしれない。

 恋愛や性行為は、多くの人にとっては「パートナーを選べない非日常的なこと」だ。

 この常識を裏切り、いつでも違うパートナーと恋愛や性行為を演じられるサービスは、既存の良識を信じたい人たちにとっては、社会的にはさまざまな人間関係や既存の秩序体系を壊しかねないと不安がられてしまう。

 そのために、セックスワークや恋人代行は「認められにくい仕事」として蔑まれながらも、「でもやっぱりしたい」「セックスワークで働きたい」という本音の欲望のマッチングによって今日まで続いていた。
 続いてきたという事実こそ、いつの時代も人類は建前だけでは生きられないことの証明だろう。

 そのせいか、自分がセックスワーカーであることを隠さず、フランクに語れる友人が僕には多い。
 風俗通であったり、AVマニアであることをあっさりうちあける友人も少なくない。
 セックスワークは、人を素直にさせるところがあるのかもしれない。

 しかし、世間には、自分にとって関心外であることにあえて首を突っ込むこともなければ、後ろ指をさされるような仕事や友人を選ばないでいる方が幸せだと考える凡庸な人が珍しくなく、「自分だけはきれいに生きてきた」と心の底から信じている人も珍しくない。
 そういう人にこそ、以下の動画を観てほしい(10分足らず)。



 上記の動画は、2010年にスカーレット・アライアンスが制作した。

 スカーレット・アライアンス(Scarlet Alliance)は、オーストラリア国内のおよそ2万人のセックス・ワーカーを代表する最大組織のひとつだ。
 Australian Sex Work Association Inc. とも名乗るように、1989 年に州・準 州にそれぞれあったセックス・ワーカーなどへの支援組織を基礎に、1995  9 月に複数の組織を糾合する形でできあがった。

 上記の動画の中でセックスワーカーたちが、自分の大事な友人や家族などに対して何を求めているかを語っている。
 その内容を以下に文章で紹介しよう。


●セックスワーカーと他の仕事にどれほど違いがあるかな?

A 恋人とのセックスと、客とのセックスは違う。仕事とプライベートは別。
  他の職業でも同じでしょ。
  客とのセックスは仕事。

B セックスワーカーの恋人として知っておいてほしい。
  危険な場所で働くこともある。
  違法な店だったり、設備が悪かったり、頭にくることだってある。
  家でグチを話せば、聞いてほしい。
  たとえば、保育園の設備や環境が悪ければ、変えたいと思うのと同じ。
  「イヤなら、やめろ」「しょうがない」なんて言わずに、ただ応援してほしい。

C 仕事柄、お客さんと親密になる場面がある。
  けれど、あなたとの関係は何物にも代えがたいもの。

D 仕事をしている時の私は、エンパワーされていて、性差別の被害者ではない。
  性差別を助長してもいない。

E 人を驚かせるためや、自分をよく見せるためなど、どんな理由であっても、私がセックスワーカーだと言いふらしてはだめ。
  私の仕事を開示する権利は、私にある。

F 仕事から戻った時、「どうだった?」と気にかけてくれて、ありがとう。
  批判しないでくれて、ありがとう。
  サポートしてくれたり、仕事の疲れを癒やしてくれて、ありがとう。

G セックスワーカーのための居場所は、私たちが安心できるように作られている。
  でも、私と仲が良いからといって、あなたも利用できると思わないでほしい。
  そういう場所を私たちが必要とする理由を考えてみてほしい。
  セックスワーカーと仲が良くても、入場券はもらえない。

H 源氏名と本名を分けるのには、理由がある。
  冗談でも、混同してほしくない。
  私はそれが一番イヤかな。

I 金のために男と寝ても、私はクィア

J 客からの電話を優先することを理解してくれて、ありがとう。
  一緒に過ごしていると、電話が邪魔な時もあるけれど、別人格で電話をとる私と、一緒にいてくれて、ありがとう。

K もしセックスワーカーの恋人にHIVをもつ客がいたら?
  安全な行為にするために、細心の注意を払っているはず。
  だから、恋人を信じて。
  心配していることがあれば、聞いて。
  HIVを持つ客がいるなら、解決策を見つけ出してるかも。
  ネガティブな情報しか出回っていないから、自分たちで努力していろんな問題を解決してきた。
  そういう経験がない人には、大変かもしれない。
  でも、教えてあげられることはたくさんあるし、安心してほしい。

L 私がセックスワーカーを続けても、あなたが大丈夫なのか、正直に教えて。

M あなたが不安だからって、お客さんを悪者にしないで。
  私が他の人と寝てるのが、つらいのはわかる。
  けど、あなたを安心させるため、仕事がつらいふりをしたくない。
  素晴らしい性体験をすることもあるし、お客さんとの関係もすごく良い。
  あなたとのセックスが仕事のと違うのは、お金が介在するからじゃなく、人が違うから。
  あなたを支えたいけど、「仕事が嫌い」とうそをつきたくない。

N 「仕事をやめて」と言わないね。
  よくはわかってないと思うけど、仕事を大事に思っていることは理解してくれてる。
  そういう部分にとても感謝しています。

O お客さんからの急なアポや行為の要求に、どれだけYESと言うことがあっても、あなたにNOを言う権利が私にはある。

P 精神疾患を抱えたセックスワーカーと付き合っている場合、本当にセックスワーカーをしたいのか、わかりにくいかもしれない。
  自尊心を損なわれている人が、セックスワーカーを選ぶとよく言われてるし、自傷行為に見えるような働き方をする時もある。
  「守ってあげたい」と思う気持ちはわかる。
  でも、自分のことは、自分が一番わかってる。
  危険に見えても、身を守るため、よく考えて行動している。
  信頼してほしい。

Q 仕事がつらい時は、泣かせて。
  嫌な客に当たって、差別されたりしたら、家に帰ってから、あなたにグチを吐かせて。

R 私たちはみな、小さい頃からセックスワーカーに対して否定的なイメージを刷り込まれる。
  親しい人がセックスワーカーでも、その刷り込みは消えない。
  自分から進んで調べ、行動し続けない限り、社会に刷り込まれたイメージはなかなか抜けないもの。
  大切な人のために努力するのは、あなたの役目。

S 性的虐待のサバイバーであること、そしてセックスワーカーであることは、私の中ではまったく関連性がないこと。
  関連性を疑う権利は、あなたにはないし、セックスワークを否定するために私の過去を利用しないで。
  サバイバー、セックスワーカー、両方の私を尊重して。

T 私はあなたを選んだ。
  この関係と愛があるから、私は何でもできる。

U あなたに不満があって、セックスワーカーになったんじゃない。
  生活していくため、選んだ仕事だった。
  自分の気持ちをうちあけてほしかった。

V セックスワークに理解があるふりを24時間しなくてもいい。
  セックスワーカーの知り合いが今までいなかったのなら、とくに困難なこともあると思う。
  イヤな気持ちでも溜め込まずに伝えてほしい。
  わからないことがあれば、聞いてほしい。
  でも、「仕事をやめろ」とか、「間違ってる」とは言わないで。
  セックスワークは、正当な職業。

W 昔は、セックスワーカーだと恋人はできないと思ってた。
  セックスワークに理解を示し、愛してくれる人はいないと。
  同じくセックスワーカーである恋人に、感謝の気持ちを伝えたい。


 日本にも、セックスワークの職場環境の改善をめざす活動団体がある。
 Swash(スォッシュ)だ。
 公式サイトには、セックスワーカーの事情を学べる最新の資料も随時公開されている。
 2015年7月に大阪のトークライブハウス「LOFT PLUS ONE WEST」で、カジュアルに活動報告がなされた。
 ぜひ観てほしい。



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