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■人づきあいが下手な人、必見の映画『Start Line』


 「音が曲がって聞こえる」という聴覚障害をもつ作曲家・佐村河内守さんを取材したドキュメント映画『FAKE』(森達也監督)が、渋谷ユーロスペースで記録的な大ヒットになっている。
 その『FAKE』の感想についてはこのブログに書いたが、耳が満足に聞こえないことは、その当事者にとって「健聴者とのコミュニケーション」の難しさは日常的な課題になってしまう。

 これは、「日本手話」や「口話」(口の動きの読み取り)という言語と、健聴者にとっては当たり前に発音される「日本語」では、文法だけでなく、文化と関係作法に違いがあるからだ。
 あえてわかりやすくたとえるなら、アフリカ人と日本人がいきなり出会っても、どう意思疎通していいのか、両者ともにわからず、困ってしまうはずだ。
 それと同様に、自分自身が当たり前に考えている礼儀やつきあい方を文化の異なる相手にわかってもらおうとすれば、相手の言語や文化、関係作法を知ろうとしなければ、通じない孤独に陥りかねない。

 耳が聞こえない人どうしなら、手話でお互いの言おうとしている意味を理解できる。
 そこに、手話を知らない健聴者が入ってくれば、筆談ができればまだいいが、筆談すら出来ない場合だと、手話と日本語以外のコミュニケーションを探り当てるしかなくなる。
 身振り、手振りやしぐさ、表情など、視覚に訴えるアクションを駆使し、サイレント映画の役者のように感情や意志をわかりやすく伝える演出が必要になるのだ。

 しかし、社会の中では、耳が聞こえない側がマイノリティ(少数者)。
 健聴者の中では、手話では気持ちを満足に伝えられず、イライラすることになる。
 そうなると、「ろう者はろう者どうしでつき合う方が楽だ」と考え、一般社会との接触を怖がったり、面倒に感じたりする中で、孤独をこじらせてしまったり、「手話でしか満足にコミュニケーションができない自分が悪いのではないか?」と考えてしまうなど、自己評価を低めてしまうことがある。

 生まれつき耳の聞こえない今村彩子さんも、健聴者との間でそうしたコミュニケーションギャップの問題を抱えていた。
 しかし、彼女は映画監督になりたかった。
 一般に公開する映画は、観客のほとんどを占める健聴者からの入場料収入によって製作費を賄うため、健聴者の鑑賞に耐える品質を守ろうとすれば、ろう者だけでは作れない。

 だから、彼女は健聴者とも一緒に仕事をしながら、これまで劇場に公開するドキュメンタリー映画をいくつも作ってきた。
 僕が最初に彼女の作品を面白いと思った『珈琲とエンピツ』の予告編を観てほしい。



 この映画には、今村さん自身も出演している。
 この映画の主人公は、健聴者と自然につきあっているサーフショップの店長。
 彼も今村さんと同様に耳が聴こえないが、筆談と身振り、珈琲と笑顔で周囲を明るくしている。
 そんな姿に今村さんは憧れながらも、彼のようになれない自分を責めてしまうのだ。

 だが、この映画の公開から4年後の今年(2016年)、今村さんは面白い新作を公開する。
 それが、『Start Line スタートライン』だ。


●「自己評価が低いね」と言われたことのある人のための映画

 『Start Line スタートライン』は、今村さんが沖縄に飛び、自転車で北海道まで旅する日本縦断のロードムービーだ。
 約2ヶ月に及ぶ日本縦断に伴走してくれるのは、健聴者の青年。

 『珈琲とエンピツ』は、「耳が聞こえる人・聞こえない人」という分断の前でとまどいながらも、「一番大切なのは、伝え方ではなく、伝えたい気持ち」ということに気づくまでの物語だった。
 今回の『Start Line スタートライン』は、パンク修理も、トラブル処理も、基本的に耳の聞こえない自分が解決することを条件に旅を始める。
 では、特報の映像を見てみよう。



 僕はこの映画のDVDを今村監督に送ってもらってさっそく観たのだけど、この静かで正直な映画に一目惚れしてしまった。

 ネタバレになるので、詳細は言えない。
 でも、この映画は、ロードムービーならではの奇跡的な出会いもあれば、伴走者の青年の今村監督に対するダメ出しも超面白い。
 なんといっても、懲りずに何度も失敗し続けてはペダルを漕ぐ今村さんが、とってもけなげでキュートなのだ。

 もちろん、たった2ヶ月間の旅で変わるほど、人間は単純じゃない。
 誰だってそんな急には変われない。
 しかし、たった一人の孤独の中でひきこもっているよりは、旅に出る方がよっぽどマシだ。
 そう思えたなら、あなたも今村監督と同じかもしれない。

 自分でも呆れるほど不器用で、自他ともに認める「コミュ障」で、人とどう付き合っていいのかわからないまま言い訳しては、やるべきことがまともにできない自分を責めまくって泣く、イラつく、黙る、反省する。
 そして、また誰かにこっぴどく叱られる…。
 それでも、世界には、すべて観ようとしても観られないほどたくさんのステキなものが満ちあふれているのだ。
 この映画を観て、思わず自転車旅行に出かけたくなる人も出てくるだろう。

 『Start Line スタートライン』は、今年(2016年)9月から東京・名古屋・大阪の映画館で公開予定。
 最新情報は、Facebookページか、公式サイトを参照してほしい。
 マスコミ関係者は試写会情報をチェックの上、nishi@regard-films.com(配給担当者)まで。

■映画『Start Line』の試写会
 6月30日(木) PM3:30 TCC試写室(新橋駅から徒歩3分 tel:03-3571-6378)
 7月13日(水) PM6:00 同
 7月27日(水) PM1:00 同
 8月9日(火) PM3:30 同
※各回、今村監督が来場予定(手話通訳つき)

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