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■大手の広告代理店に入りたがる、恥知らずな若者たち


 まず、日本のテレビ番組を観てみよう。
 日テレの「世界一受けたい授業」で20081115日に放送された、伊勢崎賢治(東京外語大学教授)さんの授業だ。



 アメリカで1990年、「ナイラ」というクェート人の少女が泣きながら、イラク兵がいかに残虐だったかを公の席で語った。
 イラク兵が病院の中にまで攻めてきて、赤ちゃんまで皆殺しにしたと言ったのだ。
 この発言がアメリカの世論を大きく動かし、湾岸戦争に突入する一因になったといわれている。

 ところが、後からとんでもないことが判明した。

 この少女は一度もクェートに行ったことがなく、ずっとアメリカで育っていたのだ。
 彼女の涙はお芝居であり、言葉はすべてセリフだった。
 誰が彼女をそうさせたのか?
 広告代理店だ。

 戦争をやりたいアメリカの一勢力が広告代理店に大金を渡し、広告代理店が仕掛けた「戦争賛成派を増やすPR」だったのだ。

 「戦争は広告代理店によって操作され、すべての戦争は広告によって鼓舞され、正当化されてきた」と、伊勢崎先生は言う。

 このように、広告代理店の人たちが大金さえもらえばいくらでも倫理を捨て去る仕事をしてきた事例を、日本人ならピンと来るだろう。

 電力会社からばく大な広告予算を受け取り、何十年間も「原発は安全です」と新聞やテレビなどで盛んに表現してきたのは、大手の広告代理店だった。
 ハッキリ言おう。
 その大手広告代理店とは、電通だ。

 電通は、福島原発の事故後、「安全です」と言い続けてきた自分たちの責任を一切省みず、謝罪会見すら開いていない。
 彼らにしてみれば、「自分たちはスポンサー企業の意向を表現しただけ」と言いたいのだろう。

 要するに、大金さえ入るなら、どこの地方都市が被爆しようが、彼らには関心外なのだ。

 もちろん、電通からの大金をもらって「原発は安全です」と笑顔で言っていた有名人が、事故後にバツが悪くなって、発言力が下落しても、電通は知らん顔だ。
 国民生活がスポンサー企業の意向でどうなろうとも、自分の財布だけを肥やしたい。
 そういう浅ましい仕事を平気で続けているのが、電通なのだ。

 電通による世論誘導については、本間龍さんの一連の本を読んでみてほしい。



 電通が原発の安全性を世間に何度もしつこく訴えてきたことは、陰謀論でも何でもない。
 実際に、誰もが今なお、電力会社の広告を目にしている。
 これは、隠しようもない事実だ。
 そんな電通は、2016年の新卒の就職先人気企業で第1位の企業になっている。
 なぜか?

五輪招致で5分間PRビデオに税金から10億円も儲けた電通

 電通社員の30歳の平均年収は、900万円ほど。
 これは広告業界でもトップで、社員全体の平均年収で1000万円を越える。
 40歳を過ぎた役職、役員の年収は、もちろん目ン玉が飛び出るほどの高額になる。

 つまり、社員はほっぺたを分厚い札束でペンペンと叩かれながら、「社会的責任や倫理なんてものは忘れろよ」と笑う上司に黙って従い続けるのだ。
 「おまえも家族に良い暮らしをさせたいんだろ?」と若い社員たちの足元を見て、反抗心をそぐわけだ。
 そして、ヤクザの舎弟のように、親分の言うことを素直に聞く「良い子」になってゆく。

 これは、電通社員と仲良くして、広告の制作物を請け負う外注先のクリエイターも同様。
 広告のアート・ディレクター、コピーライター、カメラマン、デザイナー、被写体のモデルはもちろん、「広告の仕事がほしい」と無邪気にテレビで発言するお笑い芸人から、震災後に原発に関する発言をしなくなった有名ミュージシャンまで、電通の名刺の前ではひれ伏すわけだ。

 もっとも、電通に入れるのは、超高学歴で、22歳までずっと「良い子」をやってきた世間知らずの若者たちなんだから、自分の勤務先の悪口一つ公言できないだろうし、下手すると、自分の仕事に罪悪感を覚えたことなど一度もないかもしれない。
 しかし、どんな組織にも、”良心の呵責”を覚える人はいる。
 つい先日も、五輪招致にたった5分間のPRビデオを制作するのに10億円の見積もりを出した件について、電通社員が内部告発した。

 僕自身も20代前半の頃、電通よりはるかに小規模な広告代理店で広告の文章(コピー)を書いていた。
 クライアント(依頼主)の会社を訪れては、商品の魅力について説明を受け、広告表現で打ち出すコンセプトを説明する打ち合わせを重ね、文章を書いては、雑誌広告やポスターなどの制作物を作っていた。

 しかし、コピーライターになったばかりの僕が、たった一行書いただけで3~5万円という高額な仕事ができた。
 2年目になると、一行で◯十万円にもなった。
 最初は喜んでいたが、やっていくにつれ、疑問を覚えざるを得なかった。

 僕は、その商品のデメリットを取引先の会社から教えてもらえないので、わからない。
 その商品によって、たとえば公害のような現実が生まれていたとしても、知る手段もない。
 いざそれがゴミになった時、子どもや動植物にとって安全な商品かどうかも、判断できない。
 それどころか、その企業が裏でどんな悪事を働いているかも、調べようがなかった。

 それなのに僕は、コピーに美辞麗句を並べては短期間に荒稼ぎできることに浮かれていた。
 そして同時に、どんどん跳ね上がるギャラの単価に、薄気味悪さを覚えていったのだ。
 結局、広告で飯を食うことは、中世の貴族が札束をばらまいてはお抱えの音楽家たちを食わせ、自分の気に入る作品を作らせていたのと同じ商売だったのだ。
 スポンサーの顔色やご機嫌をうかがうストレスの代金として、高額なギャラが約束されただけ。
 僕は、そんな商売を心から喜べるような世間知らずのお坊ちゃんではなかった。

 大きな金が動く時には、その金の大きさの分だけ社会的責任も大きくなる。
 そりゃ、そうだろ?
 大金を使わずに貯め込んでいけば、その分だけ経済の動脈硬化が起こりやすくなるんだから。

 しかも、多額の税金を使うとなれば、その額面に見合うだけの成果を出さなければ責任を問われるし、そこで確実な成果を出そうと思えば、合法的ではないやり方だって採用しかねない。
 それが、広告という仕事に潜む危うさの一つだ。
 電通が東京五輪の招致を請け負って、ワイロまで使ったのも、そういう危うさが露呈してしまったといえる。

 それでも、電通から広告スポンサーを手配してもらっている新聞やテレビなどのマスメディアは、五輪招致に関わるこの大型スキャンダルを深掘りできない。
 それどころか、スポンサー企業の不祥事についても、積極的には深掘りしない。

 たとえば、テレビCMを続けているカネカは、「カネカ」という社名に変更される前に、カネミ油症事件を起こし、現在も多くの被害者が苦しんでいる。
 そのテレビCMで「カガクでネガイをカナエル会社」というキャッチコピーを同社のイメージキャラクターを務め続けてる知花くららさんから聞く時、映画『食卓の肖像』を観てほしいと思う。

 自分がいくら儲かっても、そのことで誰にも言えない苦しみを抱えている人を傷つけてしまうかもしれない。
 そういう気持ちで仕事をしないのなら、残念ながら知花さんも「貴族のお抱えの音楽家」なのだ。

 昨今では、大手の広告代理店の出身で、ソーシャルデザインの仕事に就く人が増えている。
 僕に言わせれば、こうだ。

「笑わせるな。
 朝日新聞は、慰安婦の誤報記事の件で社長自身が謝罪会見を開いたじゃないか。
 広告代理店のボスは、電力会社や公害企業、国や東京都などから大金を儲けても、本来なら批判すべき仕事をするはずのマスメディアを支配できるから、絶対に謝らないじゃないか。
 そういうボスや企業から独立した後で、社会を語れよ。
 でなけりゃ、世間知らずの坊っちゃん、お嬢ちゃんしかダマせないぜ。
 生きづらい社会の仕組みを作り、温存する立場で、ソーシャルデザインの何を語れるんだい?」

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