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■2億円の血税で2000万円の寄付しか集まらない理由

 3月2日の参議院の予算委員会で、蓮舫さんは、子どもの貧困対策のために寄付を募る「子供の未来応援基金」2億円以上の税金を広告に使っても、基金への寄付が約2,000万円しか集まっていない現実について、2億円をそっくり基金に入れた方が良かった」費用対効果の悪さを指摘した。


 すると、NPO法人キッズドアの代表・渡辺由美子さんが、日本の子どもの貧困問題 広告費2億円を考える」という記事を発表し、こう疑問を呈した。
「この指摘は間違っていると考えます。
 子どもの貧困のことを広く知ってもらうために、たった2億円しか使っていないから、寄付が集まらないのではないでしょうか?」

 これを読んで、僕は「たった2億円」という言葉に引っかかった。
 その2億円は、税金だ。血税だよ。
 渡辺さんは、日本では今、国会議員と官僚が借金と増税でしか歳入不足を埋めることができず、より若い世代の子どもたちに経済的な圧迫を強いてしまってる構図に鈍感なのだろうか?
 しかも、その「2億円」がどう使われたのか、ご存知なのだろうか?

 2億円の内訳は、以下のとおり。
★広告代理店に6500万円
★ホームページ作成に3000万円
★インターネットの広告代金に7000万円
 など。

 広告代理店に入った6500万円には、媒体出稿料や広告制作料は含まれていない。
 政府から受託されただけで、入ってくる美味しいお金だ。
 渡辺さんは、「子どもの未来応援基金」のネット広告を見ただろうか?
 ほぼ毎日起きてる時間はネットを見ている僕ですら、記憶にない。
 渡辺さんは、この基金に寄付しただろうか?
 僕は、していない(理由は後述する)。

 広告の費用対効果について専門的に計量するなら、このサイトを参照されたい。
 日本では、欧米と比べれば、寄付文化が根付いているとはいえない。
 しかも、ネット広告を出した程度で、その経費を上回るほどの多額の寄付を集められる費用対効果の良い広告手法はまだ発見されていない。
 巨額の血税を支出しても、成果を期待できる根拠がないのだ。
 その懸念が現実になってしまったのだから、批判されるのも当然だろう。

 渡辺さんは、日本ユニセフやワールド・ビジョンを引き合いに、多額の広告費をかければ、それをはるかに上回る寄付収入を得られるように書いている。
 その2つの団体には活動実績があり、その活動実績を視聴者へ訴えかけて寄付を募る信頼の担保にする形で、広告代理店を通じてテレビ局に長い期間、広告映像を出稿してきた歴史がある。

 だが、「子供の未来応援基金」は新設の基金のため、子どもの貧困解決の実績はない。
 実績がないところには信頼もないため、寄付を集める呼びかけの効果は期待しにくいのだから、巨額な広告費を計上すること自体、ありえない話だ。
 かりに認知拡大の効果があったとしても、寄付を動機づけられる根拠が薄いのだから、費用対効果が悪くなるのも当然の帰結。

 いくら広告が大金を出して一方的な主張を伝えるものであろうとも、「信頼の根拠のない基金に寄付してくれ!」というメッセージは、あまりに無理があるだろう。
 広告の額面を増やすことよりも、むしろ「子どもの未来応援基金」が費用対効果の良いすぐれた手法で子どもの貧困解決ができるかどうかを問うのが先ではないか?

●「子供の未来応援基金」の事業の中身は、まだ未定

 「子供の未来応援基金」は、集めた寄付金をNPOなどに配り、以下の事業に使うものだ。


 左側に書かれた「家庭的養護」などの項目の事業をすべて全国のNPOを通じてやろうとすれば、億単位の年間予算が必要になる。
 1つのNPOに200万円を拠出したところで、全国で10団体しか活動できないことにピンとくれば、億単位が必要になることは理解できるだろう。
(ちなみに、Googleは日本のすぐれた複数のNPOにそれぞれ5000万円を提供した)

 2015年10月1日から今年2016年2月末日までの5ヶ月間で、寄付金が2000万円程度しか集まらない現状だと、年間でせいぜい5000万円程度。
 しかも、この事業では、当事者に金銭を直接交付・貸与する団体は支援対象外と明記されているので、寄付金は貧しい親子のサイフには入らない。
 そうなると、貧困解決に費用対効果の良い優れた仕組みを既に実行しているNPOの活動実績だけが、寄付を動機づける唯一の信頼の根拠になりうる。

 ところが、 「子供の未来応援基金」の公式サイトには、そうしたNPOに関する具体的な取り組みや団体名などが一切、公開されていない。
 これから、基金から助成するNPOを公募し、選定の後、決定するのかもしれないが、これではどんな事業をするのか、さっぱりわからない。
(あなたなら、この時点で寄付したいと思う? 僕はしない)

 それゆえ、広告代理店では、最初から多額の広告出稿料がかかるテレビ広告を打つのではなく、少額で済むネット広告で様子見をしながら、実績を信頼の担保にできそうな頃合いで、さらに多額の税金を引っ張ろうと考えているのではないか?
 だから、官僚に「最初は2億円ほど拠出してもらえないか? そうすれば、一応、子どもの貧困に政府・自民党は配慮したことにはなるし」と内々で打ち合わせたような気がするのだ。

●広告と広報の決定的な違いは、報道価値があるかないか

 いずれにせよ、こうした広告の手法と、キッズドアの渡辺さんが「寄付集めには本当に苦労してます」と嘆く際に採用すべき広報の手法は、まるで異なる。
 前述したように、広告は媒体に金を出して言いたいことを一方的に伝えるものだ。
 しかし、広報では、新聞やテレビ、雑誌などの記者に取材してもらうことで媒体に出るため、報道する側にとっての価値(=ニュース・バリュー)を理解していなければ、進まない。

 このニュース・バリュー(報道価値)の要件を理解していない人は多いので、僕は日本財団CANPANプロジェクトが主催するNPO向けの連続セミナーの一環として、「広報戦略・取材される技術」と称した講義を行ったことがあるし、このスキルを一度身につければ一生使えるので、Skypeによるオンライン指導サービスも2013年からやっている。

 寄付金が集まらない理由を、キッズドアの渡辺さんは私たちの活動を知っている人がまだまだ少ないから」と平気で書いている。
 けれど、僕のように社会貢献シーンを取材しているライターは、活動履歴が長いNPOのホームページくらい定期的に見ている。
 それでも、取材したくならない。


 端的に、報道価値が乏しいからだ。
 逆に、報道価値が高いと思えば、一度の取材で終わらず、何度も取材させていただき、その団体の活動の成長を見守っていく。
 報道価値とは何かについては、『よのなかを変える技術』(河出書房新社)にも書いておいた。

 キッズドアの活動内容が悪いとか、役に立ってないというわけではない。
 公式サイトに活動の恩恵をうけるはずの子どもたちの率直な満足度が紹介されていなかったり、貧しさに苦しむ当事者のニーズが当事者自身の言葉で語られていないなど、活動の正当性を判断できるだけの情報開示が十分ではないと、取材する側は急いで取材する気にはならないのだ。

 子供の未来応援基金は、2億円の血税を投じて5ヶ月間で2000万円程度しか集まらなかった。
 僕自身、寄付を集める仕組みを運営している。
 その仕組みで、毎月20万円程度(年間200万円以上)は僕一人でも仕事の片手間で調達できる。
 10人のボランティアがいれば、2000万円など楽勝。
 そこに2億円の血税を突っ込んだ罪は極めて重い。

 最後に、渡辺さん自身が政府が2億円,広報宣伝費を使った事にあなたが怒っているとしたら、ぜひあなたにお伺いしたい」と書いていたので、その質問にこのブログ記事(←クリック)で答えておこう。

【関連ブログ記事】
 全国の貧しい親子の「未来応援」が寄付でできる?

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