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■社会から「のけもの」にされる人たちが作るアート

 大阪万博の建物のほとんどは、跡形もなく片付けられた。
 唯一といっていいほど原型をとどめているのは、岡本太郎さんの太陽の塔だ。
 地元市民が「残してほしい」と懇願し、万博記念公園の目玉として、今なお人気のアートとして残っている。

 岡本太郎さんというアーチストは、自分の作品を個人所有にしないことを信条としていた。
 だから、壁画やモニュメントなどの形で公共空間に置かれ、現代人が楽しめる作品も少なくない。

 生前、週刊プレイボーイで『にらめっこ問答』というタイトルの人生相談をしていた岡本太郎さんは戦後、本を書いたり、講演をするなどして飯を食っていたと告白していた。
 1960年代当時、人気作家だった三島由紀夫が岡本太郎・作の『座ることを拒否する椅子』をえらく気に入ったそうだが、手放すことはなかった。

 美術を「売り物」として個人所有にしたり、市場に出すことを拒むには、他の収入手段が必要になる。
 だから、アートによる公共事業を引き受ける一方で、テレビの番組やコマーシャルにも出演していた。
 それは、彼が「今日の芸術」を以下の3つの条件だと主張し、自作でもそれを貫くためだった。

① うまくあってはならない
② きれいであってはならない
③ ここちよくあってはならない

 太陽の塔が、近代合理主義に反旗を翻し、原始的な魅力に満ちていることは、この「今日の芸術」3原則をふまえているからだ。

 なぜ岡本太郎の話をしたくなったかといえば、NHK Eテレの『ハートネットTV』でアウトサイダー・アートを発見しては展覧している櫛野展正(くしの・のぶまさ)さんの素晴らしい仕事ぶりを知ったからだ。

 アウトサイダー・アート(アール・ブリュッセル)については、拙著『ソーシャルデザイン50の方法』(中公新書ラクレ)でも紹介したが、正規の美術教育を受けていない人のアート作品のこと。
 たとえば、幼い子どもや障がい者、犯罪者など「美術史や美術教育の外側」で生きている人たちが作った作品が、これに該当する

 ちぎり絵の山下清さんあたりの作品をイメージしても構わないが、むしろ創り手の多様性こそがアウトサイダー・アートの価値だと思うので、興味があれば「日本のアウトサイダーアート」を参照しながら、裾野が広い概念であることもふまえておきたい。

 アウトサイダー・アートには、岡本太郎が示した「今日の芸術」3原則どおりの作品が多いのだが、彼自身、子どもの絵のコンテストの審査員を務めていたことがある。
 美術教育に毒されていないので、自分が作りたいものを無邪気に作る。
 中にはふざけた作品もあるし、精神障害者にしか描けない妄想アートもあるが、いずれも画壇や美術評論家にとって関心外にされ、長らく評価すらされてこなかった。

 逆に言えば、美術業界も、映画や演劇、文学などの業界と同じように、その分野の歴史的な伝統の延長線上にあるものしか認めたくない権威主義的な評論家や研究者に乗っ取られている状況があって、彼らの古い価値基準で「認められた」人がアーチストとして一人前として認められる構図が今なおあるのだ。
 そのせいで日の目を見ることがなかったアウトサイダー・アートを、全国各地に足を運んで発掘し、展示企画を進めてきたのが、櫛野展正さんというわけ。
 なんてステキな仕事だろう!


●「当事者固有の価値」を発掘するソーシャルデザイン

 福祉事業所で働きながらキュレーターを続けていた櫛野さんの展示企画には、「死刑囚が描いた絵画、ヤンキー関連作品、高齢者の表現物、スピリチュアル世界に関する展示など、主に社会の周縁で生きづらさを抱える人たちの展示が多い」そうだ(wikipediaより)。

 そんな櫛野さんが今、広島県福山市内にアウトサイダー・アートを展示販売するギャラリー「クシノテラス」をオープンしたいと、クラウドファンディングによる資金調達を始めている。
 これは、美術業界だけでなく、日本のソーシャルデザインにとっても画期的な事業だ。


 櫛野さんのアウトサイダー・アートを見るまなざしは、僕がソーシャルデザインを探すまなざしに通底している。
 どんな人にも「当事者固有の価値」があり、その価値を発掘すればこそ、社会のダメな仕組みによってこれまで報われなかった人たちが、自分の価値を売るという選択肢も生まれるし、何よりも既得権益のものさしによって不当に貶められた自尊心を回復させるチャンスになる。

 そのように「当事者固有の価値」を当事者と寄り添いながら発見し、価値化していくソーシャルデザインが、人それぞれの自尊心を守り、多様で対等な生きやすい社会を実現していく。
 だから、今よりもっと生きやすい社会設計を目指すソーシャルデザインにとって、アウトサイダー・アートに関心を持たざるをえないのだ。

 ぜひ、下記のクラウドファンディングを観てほしい。
 「目からウロコ」になる人、意外と多いと思うよ。


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