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■ハングリーな子にこそ、大きな夢が見られる仕組みを

 昔、年末になると決まって、地元の児童養護施設のクリスマス会にプレゼントを寄付していた。
 親がいない、いても一緒に暮らせない事情を持つ子どもたちに、クリスマスぐらい楽しい1日を味あわせてあげたいという目的だ。
 もちろん、その目的には賛同する。
 ただ、いろいろ考えて、寄付をやめてしまった。

 プレゼントの品は、いろいろだ。
 リアルに必要な鉛筆やノートなどの文具を贈る人もいれば、食べきれないほどのお菓子も贈る人もいるし、プレゼントを買う時間の余裕が無い人は現金を寄付する人もいた。
 お世辞にもぜいたくとは言えないが、「子どもたちは喜んでいる」と寄付を集める人が言っていた。
 ささやかなプレゼントがひとときの幸せをもたらすことはある。
 そのこと自体は悪いことではないけれど、こうしたことが毎年くり返されていくうちに、ふと疑問に思った。
 いつまで寄付を続けるのだろうか、と。

 毎年、ささやかなプレゼントに喜んでる子どもたちがいる。
 それで満足する大人たちがいる。
 でも、これって、親に育てられない子に「一般家庭以下」の夢しか見せられないんじゃないだろうか?
 そんな疑問が頭から拭えなくなったのだ。

 親がいない子は、いろんな意味でハングリーだ。
 一般家庭ならもらえるお小遣いもないから、内心では「お金がほしい」と望んでいても、「親がいないから仕方ない」と自分の欲望を自分で制す。
 学校で友人と話していても、家族の話になると「自分には親がいない」という気持ちにさせられる。
 欠落と思わなくても困らないのに、「欠落してる」と思わされながら育つのだ。

 そういう子どもたちに「人並みの幸せ」を一時的に演出するクリスマス・プレゼントは、ふだんの暮らしを「人並み未満」であることをことさらに認識させやしないだろうか?
 「俺には親がいないのだから、大きな夢が見られないのは仕方がない」
 「私は親のいる子とは違うのだから、いろいろなガマンも受け入れていくしかない」

 親がいないというだけで、何らかのハンデを背負ったかのように思い込まされ、低所得の文化しか知らされずに育つのでは、彼らをとりまく大人の作った環境に甘んじることになる。
 寄付は、そうした環境のままでよしとする大人の考えに手を貸し、いつまでも「仕方ない」に耐え、慣れさせていくだけなのではないか?



 マンガ『タイガーマスク』で、タイガーマスクこと伊達直人は孤児院の子どもたちにプロレスで戦い続け、勝つ姿を見せる。
 どんな子どもにも、生い立ちや環境に左右されずに努力だけで勝ち上がれる世界があることを教えているのだ。
 教育投資を満足に受けられない環境で育つ子どもたちにとって、それは学力では勝てなくても幸せになれる道が他にある希望を示していた。

 現実でも、児童養護施設出身の坂本博之さんは、プロボクサーになり、日本ならびに東洋太平洋ライト級王座を獲得した(世界ランキングでもWBCライト級1位)。
 そして、ファイトマネーで全国の養護施設にいる子どもを支援するために、2000年に「こころの青空基金」を設立した。

 児童養護施設は、どこも資金不足だ。
 それゆえに寄付に頼らざるをえない部分はある。
 しかし、それは資金調達の方法が寄付だけで十分であることを意味しない。
 むしろ、子どもと一緒に「稼ぐ力」を支援する大人たちが身につけてもいいのではないか?

 そして、その「稼ぎ方」が学力や学歴の高さを必要としない事業分野にあることに気づいてもいいのではないか?
 子どもたちをとりまく大人たちがあまりにも「人並の幸せ」にこだわりすぎて、そこで暮らす子どもたちが”ハングリー精神”という現代では貴重な宝物を内に秘めていることを忘れているのではないか?


●学力でしか戦えない社会ではないことに大人こそが気づけ

 坂本少年の人生の転機となったのは、7歳のころに養護施設で見たボクシングのテレビ中継だったそうだ。
 ライトに照らされたリングとボクサー達がきらびやかな世界に見えた彼は、この時ボクサーになることを決意したという。
 高校卒業まで施設で育ち、高校時代に『はじめの一歩』を読んで拳闘の世界に憧れた少女は、後年、女子プロボクサー・風神ライカになった。
 同じように養護施設で育った川嶋あいさんは、歌手になった。
 松本大洋さんや藤沢とおるさんはマンガ家になり、相内誠さんはプロ野球選手になった。

 彼ら「施設出身の成功者」に共通している3つのことがある。
① 自分で自分の仕事を作り出す自営業者(=経営者=起業家)
② 教育投資で左右される学力に頼らなくても稼げる職種
③ 大卒以上の所得が得られるチャンスの大きな事業分野

 上記は、「人並み以上」を目指せる働き方を採用し、個人の努力だけでなしえた成果といえる。
 そういう「先輩」たちが、自分と同じ境遇で育ったと知れば、施設で暮らす子どもにとって、大きな希望に映るだろう。

 逆に、「人並以下」の生き方しか望ませないとしたら、それは学校的価値観である学力や学歴に、支援する大人たち自身が目を奪われていることになる。
 そうだとしたら、ハングリー精神という「施設で育つ子」にとっての当事者固有の価値を評価していないってことだ。


 児童養護施設退所者の大学進学率は、全国平均75%に対して20%。
 進学した大学での中退率は、全国平均の3倍にあたる30%に達するという。
 経済的援助、そして帰る場所は施設退所者にはないから、学費と生活費を労働で稼ぎ出しながら「人並」の学園生活を送るのは極めて難しいと知るからだ。
 その代わり、彼らには「ハングリー精神」はある。
 だからこそ、幼いうちから「学力とは関係なく戦える仕事をめざしてよい」と応援されたなら、存分に力を発揮したくなるだろう。

 株式会社壱番屋(カレーハウスCoCo壱番屋)の創業者・宗次徳二さんも幼少時に施設に入れられ、その後、養父母の下で虐待や貧困の憂き目にあった。

 それでも高卒で働き、転職後に起業し、一代で「カレーハウスCoCo壱番屋」を北海道から沖縄まで全国チェーンに育て上げた。
(画像は、宗次さんの著書『夢を持つな! 目標を持て!』

 起業は、弱者の選択なのだ。
 「稼ぐ力」に、学歴も学力も必要ない。
 みんなと同じ発想をさせる学校的文化に毒されていないことは、ビジネスにとっては大きなメリットでもある。

 しかし、そのことが理解できず、親のいない子どもを「人並未満」から「人並」に引き上げることしか考えない支援者が子どもたちを取り巻いていれば、そんな環境で育つ子どもは「自分は人並以下の人生しか歩めない」かのように思い込んでしまいかねない。

 もちろん、学力に自信があり、学力でのし上がりたい子には、学力アップを応援すればいい。
 しかし、現実を見るなら、たとえ学力があっても、それだけでは人並の学園生活が送れないことにやがて気づいてしまう。
 逆に、当事者の子どもたちが「人並以上」の夢を見ようとする際には、学力以外の分野の方が夢を見られるし、ハングリー精神を活かせる。

 人は、負けるかもしれない戦いにも挑まなければならない時がある。
 若い時にしか戦えないこともある。
 それが自分の生きる道だと思えたことなら、なおさら夢に賭けたいのは当たり前の情熱だろう。
 そして、夢は大きければ大きいほど、それに賭ける気持ちも大きくなり、努力へ動機づけられる。

 それを思う時、クリスマスプレゼントに数千円を寄付する以上にやるべきことがあるように思う。
 たとえば、施設に有名人を招いて「きみにもできるよ」と応援してもらうのはどうか?
 有名人は、金では動かない。
 金なら余っているから、田舎の施設にも手弁当で来てくれる。
 有名人にあらかじめ予定を聞いておけば、施設の子どもたちにとって憧れのマンガ家やボクサー、歌手、社長などが来てくれる(施設出身者でなくてもいい)。
 その方が子どもを支援する大人の役割ではないか?

 そのことにたった一人の大人が気づくだけで、ある日、日本の地方都市にある児童養護施設に突然、レディ・ガガが現れ、クリスマス・ソングを心をこめて歌う日が来る。
 ガガは日本大好きだし、来日予定も早くから発表されるから、事務所に連絡しておけば、サプライズで来てくれてもおかしくない。

 子どもたちと一緒にチャリティライブを運営し、ライブ収益で施設の運営費やクリスマスプレゼントを買えば、ふだんは食えないデカい肉にかぶりつけるかもしれない。
 それは、子どもでも仕事ができるという自信を育てるし、自分たち自身の力で自分たちの居場所を経済的に守れる誇りを生むだろう。

 僕自身、あのロックバンドのU2を世界的にメジャーにした超有名な音楽プロデューサをアイルランドからギャラ0円で日本に招いたことがある。
 つたない英語のメール1本で、彼は飛行機に乗って遠い日本まで来てくれた。
 「今度はボノを呼ぼうか」とまで、彼は言ってくれた。
 大人が大きな夢を見ようとすれば、子どもだって「自分も大人になればこういうこともできるんだ」とワクワクできるのだ。

 「人並」だけを目指す考えは、捨てちまえ。
 むしろ、子どもと一緒にやりたい仕事を支援者の大人も一緒に作り出し、たとえどんな学歴でも「自分たちの暮らしを成り立たせる金ぐらいは自分たちで作れる」仕組みを産み、育ててみてはどうか?
 そして、子どもと関わる大人ほど、「こんな無力なオッサンにもできるんだから君たちならもっと大きな夢だって実現できるようになるさ」と伝えよう。
 大人が変わればこそ、子どもは変われるのだから。

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