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■動物を虐待する社会は、市民の力で変えられる

 最初に断っておくが、僕はイルカ猟に反対してないし、スーパーに流通している鯨肉を買って味噌汁に入れて食すのが大好きだ。
 それでも、動物を不当に虐待したり、彼らの存在を無視して人間だけが豊かさを得ようとする行為には、腹立たしさを覚える。

 約10年前に、千葉県木更津市のNPOから「1960年代までは東京湾にスナメリ(※イルカの一種)が泳いでいた」と聞いた時も、人間がすべての動植物の暮らす環境を壊してきた経緯を思わざるを得なかった。

 僕が子どもの頃から住んできた市原市の湾岸には、石油化学コンビナートがある。
 父親は1960年代の後半からそこで働き、その稼ぎで養われていた僕にとって、豊かな暮らしと公害はセットのものだった。
 小学校の頃は、役所の車が「光化学スモッグ、発令中。なるだけ屋内に~」とアナウンスしながら走っていたし、そのたびに運動場から教室へ戻らされたものだ。

 高度経済成長による環境破壊の割を食ったのは、スモッグで気管支を壊した人間だけじゃない。
 海を汚されたり、森を平地に整備され、棲家を追われた動植物、魚類、鳥類、昆虫も同じだ。
 言葉を話せない彼らの存在は、長らく「関心外」にされてきた。

 しかし、ここ数年、有名人も毛皮反対運動に加わっているし、動物福祉を重視する声はどんどん大きくなってきている。


 20132月、国内では最大手の化粧品企業=資生堂が、化粧品及び医薬部外品の動物実験廃止を決定したと発表した。
 同年4月以降開発に着手する化粧品・医薬部外品に対して、外部への委託も含めて動物実験を廃止するという画期的な決定だった。

 これを実現したのは、日本の非営利団体JAVA NPO法人動物実験の廃止を求める会)。
 彼らは、2009 年から「ウサギを救え!化粧品の動物実験反対キャンペーン」を立ち上げ、資生堂に対して署名運動を展開するなどして動物実験の早期廃止を求めてきた。
 今年622日、JAVA、アニマルライツセンター、PEACEという3つの動物保護団体で構成する「美しさに犠牲はいらないキャンペーン(CFB)実行委員会」が花王を訪問。
 常務執行役員やカネボウ化粧品の執行役員ら5人と意見交換を行った。
 その席で花王は、ソフィーナやカネボウを含む化粧品全ブランド(医薬部外品を含む)について、開発段階での動物実験を廃止したことを発表。

 東京ディズニーランド(TDL)や東京ディズニーシーでは、ウォルト・ディズニー社の指針に基づき、本物の毛皮を使った製品の取り扱いは禁じられ、園内で販売するディズニー社のライセンス商品には一切毛皮を使用していない。
 しかし、動物愛護団体「PETA」から指摘を受けて内部調査した結果、TDLの一部店舗で取り扱っていた非ライセンス商品に毛皮製品6品が含まれていたことが判明。
 201312月上旬、すべての毛皮製品の販売を取りやめ、20143月には毛皮製品が撤去されたという。
(注:PETAの活動には過激なものがあるようで、一部から批判も受けている)

 動物を不当に虐待して富を得ようとする企業は、消費者に対するイメージを悪くする。
 そうすれば、不買運動につながったり、優秀なスタッフほど退社してしまうなど、有形無形のデメリットが大きくなり、最悪の場合、商売が成り立たなくなる。
 つまり、消費者=市民の間に動物福祉を大事にする感性が広がれば広がるほど、その分だけ、毛皮販売も、動物実験も、減らしていけるのだ。


●食肉にされる動物にも、本来の生き方をする権利がある

 最近は、「環境エンリッチメント」という言葉も、聞かれるようになった。
 今日では、多くの動物が人間の都合で家畜や動物園の動物、実験動物などとして飼育されているが、そのままだと、繁殖障害や発育障害を持つ個体が多くなり、意味もなく同じ事を繰り返す行動や、糞食や吐き戻しといった異常行動も頻繁に観察されるようになった。
 そこで、動物の福祉と健康を改善するために、正常な行動の多様性を引き出せるよう、異常行動を減らす工夫を飼育環境に施すのが、「環境エンリッチメント」なのだ。

 たとえば、戦後の日本では、狭い牛舎にたくさんの牛をつないで並べて搾乳するのが一般的な酪農スタイルだ。
 一つの命しかない牝牛から、子牛以外に与えられる乳の量は、おのずと限られている。
 その限られた乳を短期間に大量に搾乳すれば、消費者に安く提供できる。
 そこで、牛舎の中に牝牛を集めて妊娠・出産させ、乳の出が悪くなったら、また妊娠・出産させるという「産む機械」の生き方をくりかえし強いることになる。
 僕らは安さと引き換えに、いったいどんな牛乳を飲んできたんだ?

 僕が『社会起業家に学べ!』(アスキー新書)で紹介したシックス・プロデュースという会社では、「牛が牛らしく生きられるために」完全自然放牧で交尾し、子牛を育てる授乳期のみ搾乳させてもらうというのんびりした酪農を、6次産業化によって成功させている。
 シックス・プロデュースは3代続いた牛乳販売店だったが、孫の代で生産者になった。
 それは、祖父が「最近の牛乳は水っぽい。しかも、年中、同じ味だ」と言ったのを、孫が不思議に思ったのがきっかけだった。

 同社を取材するため、島根県の山奥の牧場を訪れたことがある。
 そこの牛の乳は、ほんのり甘かった。
 牛を見て、わかった。
 春夏は青い草を食べるが、秋冬は干し草を食べる。
 だから、春夏秋冬で味も色も違ってくるのだ。

 その牛乳は、『四季のめぐみ』と名づけられた。
 これも、「環境エンリッチメント」によって本来の牛乳という価値を取り戻した事例の一つ。
 消費者が生産者と牛が作り出した価値を知ろうとすれば、「コンビニで格安で売られている牛乳と比較して高い」なんていう評価はしなくなる。
 みんなと同じような姿で、みんなと同じ机に座り、みんなと同じ時間に帰る働き方をする人間には、同じように「産む機械」の牝牛の乳がお似合い?

 人間だって、動物だって、自由になれば、違う生き方になるはずだ。
 生物多様性(ダイバーシティ)を主張するなら、のんべんだらりと遊んで暮らす自由も認めてくれ。
 僕は、本物の牛乳が飲みたい。


 牛といえば、映画『被ばく牛の生きる道』も応援してほしいが、その映画も原発事故という人間の都合で殺処分を迫られている牛と飼い主の闘いの記録だ。
 「絶対に事故は起こらない」と原発を推進してきたのも国家なら、戦後の給食を洋食化して牛乳の生産需要を増やしたのも国家なのに、いざ事故で被ばくしたら「お前が死ね」と牛を殺しにかかるのも国家なのだ。
 こんな国家には、「バカ野郎」と叫んでやろう。
 牛たちは、「もう…」としか叫べないから。

 殺処分といえば、「猫付きシェアハウス」「保護犬カフェ」について以前に書いた。
 保健所で殺処分される前に保護された犬猫は、人間と一緒に生きるチャンスをたくさん作れば、救われるのだ。
 施設なら、たとえ自分が死んでも、他の誰かが育ててくれて安心だ。
 動物が安心できる環境を少しでも増やすのが、殺処分を辞められない人間の責任だろう。

 動物たちは、生きる権利すら自分で主張できない。
 彼らが人間によって画一的に育てられ、苦しめられるのは、人間自身が同じ人間を平気で管理してしまっているからだ。
 きみが本来、誰かにとって換えられる存在ではないように、牛や犬や猫もみんな命は1個ずつ。
 人間と動物の区別なく「環境エンリッチメント」を考えるなら、言葉を持つ僕らは、僕ら自身を管理し、画一化しようとする連中に言わなくちゃいけない。
 「バカ野郎、おまえなんかに従ってたまるか」と。
 「おまえなんかに従って、殺されてたまるか」と。

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